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第8回 動物性食品を中心とした糖質制限食は死亡リスクが高い!?

近年、低炭水化物食(いわゆる糖質制限食)は即効性のあるダイエットやいくつかの病気のリスクを下げる健康食として広まっています。一方で、長期的な介入は、循環器疾患のリスクや死亡リスクが高くなるなど、前記を覆すようなエビデンスも多く存在しています。

しかしこれまでに行われた研究は、「低炭水化物が与える死亡リスクへの影響に関するこれまでの研究結果について、研究プロジェクトによって結果が違う」、「炭水化物の摂取に関するこれまでの研究は、食品が与える影響を説明していない」ものが多かったようです。そこで、公衆衛生専門誌“Lancet Public health”において、これらを踏まえて行われた長期的な低炭水化物食と死亡率の関連に関する研究が発表がされました(1)。

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【方法】
研究者らは、先行研究として、アメリカの4つの地域における45~64歳の15428名を対象とした“動脈硬化リスク研究(ARIC研究)(2)”の参加者を25年間追跡調査しました。炭水化物の摂取量については、対象者が飲食したものと、サイズも合わせて尋ねた質問表の回答から、被検者の摂取カロリーにおける炭水化物、脂肪、たんぱく質の割合を推計。男性で1日に600kcal以下、4200kcal以上をとっている人、女性で1日に500Kcal以下、3600kcal以上をとっている対象を除き、炭水化物由来のエネルギー%と全死因の関連について調査。さらに、動物性タンパク質や脂質を多く含む低炭水化物食と、植物性タンパク質と脂質が多い低炭水化物食を比較しています。その後、7つの前向きコホート研究の432,179人のデータも合わせてメタ分析し、炭水化物と死亡率の関連を調査しました。

【結果①】
寿命と炭水化物の間に“U字型の関係”
対象者の先行研究の結果、総死亡数は6,283人(全死因死亡数)。さらにデータを解析すると、炭水化物摂取量と平均寿命には“U字型の関連”があり、50-55%の炭水化物の摂取が最も死亡率が低いという結果を示しました。“U字型の関連”について、炭水化物のエネルギー比率が少なすぎても(40%未満)、多すぎても(70%以上)、50-55%に比べて死亡リスクが高まるという結果がみられた。炭水化物のエネルギー比率が全体の総エネルギーの40%未満の場合、平均寿命は4年短くなり、70%以上でも1年短縮することが確認されています。これらの結果は、これまでに行われた7つの前向きコホート研究の結果と類似していました。
【結果②】
大切なのは、炭水化物摂取量だけではない
 炭水化物の摂取量だけが問題ではなかったようです。40%未満の炭水化物を摂取していた“低炭水化物群“の代替食品によっても、死亡リスクは異なることも明らかとなりました。牛・豚・鶏・羊肉やチーズなどの動物性由来のたんぱく質と脂質に置き換えられていた場合は、植物性食品由来の場合と比べて、さらに死亡リスクが高かったとのことです。

【考察・結論】
これらの結果から、本研究著者は「近年世界で普及している低炭水化物食、特に動物性食品を中心とした長期的な低炭水化物食は寿命の短縮に関連している可能性がある」と示唆し、動物性食品を中心とする糖質制限食は推奨されるべきではないことを述べています。加えて、「低炭水化物食の実践したい人は、代替え食品を動物性ではなく、植物性の脂質およびたんぱく質を含むものを選ぶ方が、健康的に歳をとるための長期的なアプローチであるかもしれない」と示唆しています。

-かわるPro事務局より-
これまでの有名な糖質制限に関する論文は、食環境や栄養状態が日本とは大きく違い過ぎるデータを含んでいる、炭水化物以外の栄養素の分析が不十分など、日本人にそのまま当てはめて一次情報を発信するにはリスクがあるものばかりでした。

今回の調査研究は、年齢、性別、地域内の心血管病のリスク、総カロリー摂取量、糖尿病、喫煙、運動量、年収、教育レベルと、数多くの因子で調節がなされており、比較的信頼できるデータであるようにみえます。

但し、事務局としては、本研究の内容として、以下の3つはシビアに評価したほうが良いと感じています。

1)この調査結果は因果関係ではなく、観察による関係性を示しており、「糖質制限、糖質過多だから死亡リスクが上がる」と言い切れるわけではない。
2)研究に参加した被験者の食事は自己申告のデータに基づいており、正確でない可能性もある。
3)本研究の限界点としても書かれているが、被験者の食事は、「調査開始時」と「調査開始から6年後」の2回のみの計測。食習慣が、その後の19年間で変わった可能性がある。
4)原著論文にある結果の表も含めてしっかりと見ると、低炭水化物食の人は動物性食品が多くなるだけでなく、食物繊維も少ないようである。つまり、厳密には「動物食品の摂取過多と食物繊維不足が死亡リスクをあげる可能性」も考えられるかもしれない。

(まとめ)
これらの結果、栄養指導の現場においては以下が重要であると考えました。
★日本人の食事摂取基準(2015年版)の基準に基づいた値を参考に提案しても良いと考える。

★糖質制限をしたい・するという人には、極度な糖質制限を長期続けた際の安全性は明らかとなっていないため、むやみにおすすめすべきではない。

★「炭水化物の代わりに置き換えるたんぱく質や脂質を含む食品として、動物性食品よりも植物性食品でのほうが、長生きするうえでは良いかもしれない」という結果を踏まえて、その対象者の食事の動物性の食品があまりにも多い場合は(特に脂身の多い動物性食品)、飽和脂肪酸も含む脂質のとり過ぎていないかを確認し、植物性食品をとることもすすめる。

★糖質制限ダイエットについては、体重が増える原因として“余分なエネルギーの存在“が第一であり、エネルギー摂取量を減らせば体重は減る。つまり、炭水化物に限らず、たんぱく質や脂質においても、他のエネルギーを産生する栄養素を減らしてもよいはずであると考える。

★糖質制限食にした場合、三大栄養素以外にも、必須脂肪酸、必須アミノ酸、ビタミン、ミネラル、食物繊維なども踏まえて食事を考えることが大切。

正しい情報を伝えるにあたり、エビデンスは大切です。しかし、ある1つの情報だけを鵜呑みにして情報を伝えることが最も危険です。栄養指導では、対象者の食事や生活習慣をしっかりと把握したうえで、その人に合った情報を伝えるように私たちも気をつけなければいけませんね。


--参考文献--
Seidelmann SB, Claggett B, Cheng S, et al. Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis [Published online August 16, 2018]. Lancet Public Health.