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『むし養い』ですが。

第5回 専門家と一般生活者の言葉の「壁」


横田 久美
管理栄養士。
大学院修了後、広告代理店を経て、現在は行政機関にて、食の安全に関するイベント等を担当。



 リスクコミュニケーションって、ご存知ですか?

 『言葉とは、ある人とコミュニケーションをするための道具であると同時に、別の誰かとはコミュニケーションしないための道具でもある』と、ある言語学者の方が言っているのを聞いたことがあります。

 言葉とは、ある集団が、その集団の中だけで情報交換をし、他の集団にその情報を伝えないためにできた「コミュニケーションツール」であるというのです。 第1回目のコラムの中で、「食品の安全性確保のためには、科学的にリスクを評価し、そのリスクに適切に見合った管理をすることが『リスク分析手法』であり、この考え方が、日本を含め世界各国で取り入れられるようになった」と、書かせていただきました。この「リスク分析手法」の中で、実は、まだお話していない、重要な要素があります。それは、「リスクコミュニケーション」です。

 「リスクコミュニケーション」とは、すべての関係者において、リスクに関しての情報の共有や意見の交換をする過程をいいます。この「リスクコミュニケーション」では、リスクに関する情報を伝える側(多くの場合、専門家や行政)と受ける側(多くの場合一般生活者)との信頼関係が築かれることが重要とされます。しかし、この信頼性の構築というのは、まさに、「言葉」にするのはたやすいですが、現実には大変難しい。中でも、専門家(科学者や行政等)と一般生活者との言葉の「壁」は、リスクコミュニケーションの大きな課題のひとつです。


 不確実係数という用語の「印象」

 メチル水銀に関して、リスクコミュニケーションとして、専門家の方々と一般生活者の皆さんとの意見交換会が開催されたことがあります。 (魚介類等に含まれるメチル水銀のリスク評価や、妊婦への注意喚起に関しては、詳細は、こちらを参照してください。)

◆ 厚生労働省
◆ 食品安全委員会(PDF形式)


 その会場で、一般の方から、「メチル水銀を1週間あたりどのくらいまでなら摂取しても大丈夫かを判断する際に、他の国際機関に比べて不確実係数※が小さいので、不安である」という質問がでました。一般の方々は、「不確実係数」を「安全を見込んでの数字」という側面を強くとらえ、不明なことや解明できないことがあるのならば、「安全を見込んでの数字」はできるだけ「余裕をもって」大きくするべきと考える傾向にあります。一方専門家は、「不確実係数」は「不確実」なものであり、研究が進むことで、「より確実な」、現実に近い数値になっていくものであり、特にヒトの疫学データに基づくものである場合などは、不確実係数はできる限り小さくしていくことができるという捉え方です。このように「不確実係数」という、たったひとつの用語でも、リスク評価を行う科学者である専門家と、一般生活者では、その意味の捉え方や言葉から感じられる印象等に違いが見られるのです。

 このサイトの読者の方々も、栄養や食の専門家として、一般の方々と話されることも多いかと思います。その中で、「話がどうも通じない」「どうもかみ合わない」という事はないでしょうか? 私自身日々、リスクコミュニケーションの中で、「言葉」の壁のようなものに、ぶつかります。ただ、やはり大切なのは、「言葉」がコミュニケーションをしないための道具にならないようにすることだと思っています。


 今回の、むし養い

 友人宅で「アフリカンチキン」なるポルトガル料理を頂きました。(写真の手前にある、オレンジ色の物体です)「アフリカンチキン」にも「ポルトガル風」と「マカオ風」とがあるそうで、私が食べたのは「マカオ風」でした。スパイシーな香辛料をたくさん使い、ココナッツパウダーでまろやかさを出している、煮込みとオーブン焼きをあわせたような調理法の料理です。独特な味付けが、くせになる、ビールにぴったりの一品でした。

用語解説
※ 不確実係数…ある物質についてヒトへの一日摂取許容量(ADI)を設定する際に、通例動物における無毒性量(NOAEL)に対し、さらに安全性を考慮するために用いる用いる係数。安全係数と同義。(食品安全委員会「食品の安全性に関する用語集」参照)


横田 久美(よこた くみ)

 管理栄養士。女子栄養大学、女子栄養大学大学院栄養学修士課程修了後、広告代理店に入社。 食品を中心に、広告や政府広報等のマーケティングやプランニングを担当。その後、行政機関の非常勤として、食品の安全性に関するリスクコミュニケーション部門で、各種イベントやDVD制作などに携わる。学生時代からの興味対象であり、修士論文のテーマでもあった「食情報と人との関わり」について、これからも考えていきたい。




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