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栄養教育の現場から

私が考える「理想の保健指導・栄養教育(5)」


新出 真理
ヘルスサポート研究会カナン代表 管理栄養士、産業カウンセラー、東京医科大看護専門学校等非常勤講師


 私はこの数年、「栄養教育の実際」について管理栄養士コースの大学生に講義する機会があるので、毎回、感想や質問等を書いてもらうようにしています。その中には、「成功例だけでなく失敗例を聞かせてください」というリクエストが時々あります。そこで今回は、保健指導・栄養教育の理想を考える上で役立つ、「失敗例」について書いてみます。

 そもそも「保健指導・栄養教育の失敗」とは何でしょう? 考えてみると、難しいものです。

 なぜなら、私が思う「失敗」と受診者が思う「失敗」は同じとは言えないでしょうから―。このことを強烈な表現で、当時20歳代半ばだった私に教えてくれたのは、とある健保組合の健康づくりセクションの部長、千葉さん(仮名・50代男性)でした。

 千葉さんとお仕事をすることが決まった時、初回の打合せで放たれた言葉は、「とにかくね、ジイテキ指導はいりませんからね」。ジイテキ、と聞いて、最初は頭の中で漢字変換ができません。「管理栄養士さんひとりが気持ちよくなるためにお金を払う訳じゃありませんから。」と言われて初めて「ジイ」が「自慰」と変換され、その途端、頭の中に!!!が弾け飛び回りました。

 その強烈で挑発的な物言いに、「何て言い方!?」「女の子扱いして!」と驚きや恥ずかしさや悔しさがこみ上げると同時に、私の反応を見ている相手にどんな反応をすべきか困惑し、しかもその困っている自分がまた悔しいやら情けないやら・・・。

 正直、どのような反応をしたのかはよく覚えていないのですが、千葉さんとお仕事をしながらわかったのは、千葉さんは「自分のいる健康管理担当者の健康を本気で考えている」ということでした。本社の人事部門が長く、採用から関わった人も多いためでしょうが、多くの従業員の経歴から家庭事情などまで把握し、本当に家族のように親身になって従業員の健康を考えていました。

 本社の人事部門から健保組合に移籍するということが、千葉さんにとってどういう意味があったのかは私にはわかりません。しかし移籍後も多くのエネルギーを費やして健康づくりを熱心に勉強し、多くの事業に取り組み、意識、行動の面で成果をあげていました。当然、管理栄養士や保健師にも期待をしたのですが、大きい期待は大きい失望のもと。千葉さんはそれまでたくさんの専門職と仕事をしてはたくさんの失望感を味わい、出てきたのが前述の言葉です。そしてこう続きます。

「いくら高尚なことを言っても相手がわからなかったら無意味でしょ?有名なナントカ先生の指導方法です、とか言うのだったら、そのナントカ先生によしよしってほめてもらってお金をもらったら宜しいのです。でもあなたたちのお客さんは誰かということを忘れずに、宜しくお願いしますよ。」私にはそれが、千葉さんの心からの悲鳴のように感じられました。

 私自身の理想のためにももちろんですが、同じ専門職が期待されなくなってしまうことへの危機感、また千葉さんにこれ以上がっかりしてほしくないという気持ちがごちゃ混ぜになり、とにかく自己満足の指導はするまいと、心に誓いました。

 そこで私は自分の指導方法を振り返るため、指導後には無記名のアンケートで、栄養指導のわかりやすさ、やる気になったか、役に立ったか等ということを尋ねています。そして今でも、私の見立てと相手の回答が100%一致しないことに、難しさとやりがいを感じているのです。


新出 真理(しんで まり)

女子栄養大学卒業後、管理栄養士として電設健保健診センター等で保健指導をしながらカウンセラー資格取得。筑波大学大学院修士課程健康教育学専攻修了と同時に開業。専門は健康教育学・栄養教育学。現在ヘルスサポート研究会カナン代表として、栄養相談、健保連巡回健保コンサルタントや大学等の非常勤講師などを務める。著書に「いちばんわかりやすい管理栄養士国家試験合格テキスト」(誠美堂出版)など。




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