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栄養教育の現場から

私が考える「理想の保健指導・栄養教育(4)」


新出 真理
ヘルスサポート研究会カナン代表 管理栄養士、産業カウンセラー、東京医科大看護専門学校等非常勤講師


 いよいよ特定健診・特定保健指導の始まる平成20年度がスタートしたところで、今回も自己紹介も兼ねて私なりの理想の保健指導・栄養教育を考えてみます。

 私は社会人として保健指導・栄養教育をするようになってから、多くの方に出会いました。勤務先の上司や登録の在宅栄養士さん以外に、取引先企業・健保組合の担当者、栄養指導の対象者の中にも印象深い方が何人もいますが、その中の一人に尾藤さん(仮名・50代男性)がいます。

 尾藤さんはある年、健診後に糖尿病があることと血中脂質に若干の異常がみられるために、栄養指導の対象となって面談に来ました。来るなりブスッとした感じで、「食事も運動も気をつけている、DMの主治医にはコントロールが良いと言われている」と言うのですが、その不機嫌そうな様子がどうも気になりました。そこで、「ずいぶん気をつけていらっしゃっているんですね。何かきっかけがあったのですか」と尋ねたところ、尾藤さんは怒った口調で「目、見えなくなったからね」と言いました。口調と内容にドキッとした私が「目が?」と聞き返すと、尾藤さんは「網膜症でね、右目が先々月から・・・」と言うと、一気に話し出しました。

 尾藤さんが言うには、それまで糖尿病と言われてはいたが、主治医はそれほど悪くはないと言っていた。だから病院で出された1か月分の薬を飲んだり飲まなかったりしながら、薬がなくなる頃、年に数回のペースで何年も通院していた。職場で栄養指導を勧められることもあったが、病院で昔受けたことがあるから断ってきた、とのこと。また、最近は出張が多くて忙しく半年ほど病院に行っていなかったが、先々月、金曜の朝に出張先で目に異常を感じたので、帰京したら受診しようと思った。土日は遊びの予定を取りやめておとなしくし、月曜に出社してから午後に主治医のところに行ったら休診で、翌日再び行ったらもう手遅れで、結局、右目を失明してしまった、ということでした。確かに数ヶ月前に受診した時の健診結果票には、両目の視力が印字されていました。私はその時、初めて失明した方の話を直接聞いたことやその経緯にショックを受けて、言葉を発せずにいました。

 尾藤さんは続けます。「先生(医師)だってそんなに悪くないって言ってたし、こんな急に見えなくなるなんて・・・。網膜症とか聞いたことはあったけど、自分がなるなんて・・・もっと強く言ってくれてれば、ちゃんと薬も飲んだし、酒とかだって気をつけたし・・・。自業自得って言われればそうなんだけど、なんで聞いてたのに、俺はわからなかったんだろう・・・。」やりきれない思い、怒りや後悔が、医師にも自分にも向かいます。少しの沈黙の後、尾藤さんが「だからね、今はちゃんとやっているんですよ」と血糖値や食事を記録したノートを私に見せ、「こんな感じで大丈夫ですか?」と尋ねたので、一緒に食事を分析しました。

 今も尾藤さんが言った「聞いていたのにわからなかった」という言葉は印象的です。どう伝えたら尾藤さんは「聞くだけでなくわかった」のだろう。また、私は今までお会いした方たちには、リスクは伝えられていたのだろうか。

 私が考える「理想の保健指導・栄養教育」の要素として、栄養指導嫌いをつくるような脅しはせずに、しかしリスクを自分のこととして受け止めてもらえるような伝え方をすることがあります。ただ、同じように話しても受け止め方は個人差が大きい。そこで私は、わかったことを相手の口から話してもらうようなアプローチを取り入れています。

p.s.皆さんは聞いていたことの意味が後から本当にわかった体験はありますか?


新出 真理(しんで まり)

女子栄養大学卒業後、管理栄養士として電設健保健診センター等で保健指導をしながらカウンセラー資格取得。筑波大学大学院修士課程健康教育学専攻修了と同時に開業。専門は健康教育学・栄養教育学。現在ヘルスサポート研究会カナン代表として、栄養相談、健保連巡回健保コンサルタントや大学等の非常勤講師などを務める。著書に「いちばんわかりやすい管理栄養士国家試験合格テキスト」(誠美堂出版)など。




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