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栄養教育の現場から

私が考える「理想の保健指導・栄養教育(2)」


新出 真理
ヘルスサポート研究会カナン代表 管理栄養士、産業カウンセラー、東京医科大看護専門学校等非常勤講師


 さて、今回も自己紹介を兼ねて、理想の保健指導・栄養教育を考えてみます。

 子どもの頃に予防の仕事をしたいと決心した私でしたが、それが管理栄養士の仕事と結びつくのは恥ずかしいことに、私の場合、実は大学に入学してからのことでした。

 というのも、私はきれいで美味しいものを食べることは好きでも、自分が調理をすることや栄養には全く興味・関心がなかったのです。もちろん、調理の知識・技術は恐ろしく低レベルで、大学入学時には、リンゴの皮をむくことができるとか、ボランティア活動の経験からカレーライスだけは作れる、というレベルでした。

 そんな私がなぜ栄養士養成校に入学したかと言えば、父の強い勧めに逆らいきれなかったからですが、入学すれば講義が始まります。それまで栄養への興味も調理経験もほとんどなかった分、栄養学や調理学の講義そのものは知らないことばかりで新鮮なことが多くありました。でも調理実習では料理好き(かつ得意)が多い同級生たちの間で、私は「役立たず」どころか、ほとんど「足手まとい」状態でした。「この野菜、切ったら次は何するんだっけ?」と聞かれてもその日は何を作るかさえ覚えていない、まして手順なんて耳を通過しただけ。「ほうれん草をゆでる鍋を持ってきて」と言われても、雪平なのか寸胴なのかどの鍋を持っていけば良いかわからない、という役立たずぶり。かろうじてできることと言えば、砂糖などの調味料を量る、使ったボールを洗って片づける、お茶碗や箸を洗って用意するといったことぐらいでした。

 みんなが当たり前にできることを、私は当たり前にできない。そんな体験を強烈に実感する調理実習が楽しいわけがありません。それでも授業に出ていた理由は二つ。調理実習は出席やノートチェックが厳しかったから、それと色々な料理が食べられたからでした。そうでなければ、私は苦手意識や劣等感を感じるその場から、逃げ出していたと思うのです。

 学校の調理実習で学んだ調理の知識や技術は、私にとって、公私ともに役立つ大きな財産になりました。しかし、それに勝るとも劣らない私の財産は、栄養に関心や知識、経験がない人の苦痛がわかったこと、そして興味をもつ方法を考える習慣ができたことです。

 栄養に関心がある方には興味深い栄養素の話も、関心がなければ興味深いどころか聞くのに我慢が必要なことがある。栄養の知識や調理の経験がある方には難しくない話、例えば食材の重量や調理法の実践的な話も、知識や経験が少なければ、一生懸命説明されるほど、わからない。そんな自分が情けないやら、相手に申し訳ないやらで苦痛が増すことがある。それが身にしみてわかったのです。

 こうした経験は私が保健指導・栄養教育をする上で、相手にいたずらに劣等感や苦痛を感じさせない指導法をしようと強く決心させました。そしてよりよい指導法をと、試行錯誤を続ける動機付けの一つになったのです。

 また、私は栄養に興味・関心がなかった分、講義で私が興味を持てない話の時は、「こう言ってくれたら、こんなことと結びついたらおもしろいのだけどなあ」と考えることが多くありました。これも、相手の価値観にあわせてアプローチを変えるトレーニングになったと思います。

 その結果、保健指導・栄養教育に必要な「わからないこと、できないことの自覚」について気づいたことがあります。これらをその人の「欠点・問題点」として、「そこから・そこだけ」指摘すれば苦痛や劣等感になってしまう。しかしアプローチを変えて、本人の価値観に基づいた目標とつながれば、「クリアできたら嬉しい課題」になると―。

 20年ほど昔のアメリカだったでしょうか。地域で、その対象になりながらも栄養指導を受けなかった方たちを対象に、「受けない理由」の調査をまとめた論文を読みました。それによると、栄養指導を受けない理由に「栄養指導を受けると劣等感?罪悪感?を感じそうだから」というようなことがありました。また、劣等感を感じることは、自己価値観(self esteem)が下がることになり、これは行動科学的な研究から、保健行動を抑制することが明らかになっています。

 言うまでもなく、栄養指導/教育は「相手を大切にする」という前提の上で成り立っていることです。栄養指導をする私たちは、「相手の役に立ちたい」「相手がHAPPYになるために栄養面からサポートしたい」と願っているはずです。私の考える「理想の保健指導・栄養教育」とは、「相手を大切に思うその気持ちが素直に伝わるような対応」です。そう思い、面談のあとは評価アンケートをとっています。

p.s.皆さんが栄養士養成校で苦手だったことはどんなことですか?


新出 真理(しんで まり)

女子栄養大学卒業後、管理栄養士として電設健保健診センター等で保健指導をしながらカウンセラー資格取得。筑波大学大学院修士課程健康教育学専攻修了と同時に開業。専門は健康教育学・栄養教育学。現在ヘルスサポート研究会カナン代表として、栄養相談、健保連巡回健保コンサルタントや大学等の非常勤講師などを務める。著書に「いちばんわかりやすい管理栄養士国家試験合格テキスト」(誠美堂出版)など。




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