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シネマの食卓から。

早く、大量に、安く 〜食の大量生産の現場〜


城市 真紀子
女子栄養大学文化栄養学科卒業後、同大学の出版部へ。月刊雑誌『栄養と料理』の編集をつとめて10年になる。同誌で映画から食の世界を広げる連載を執筆中。


 最近、食をテーマにする映画が増えたと思いませんか?

 食の問題は、日本のみならず、世界じゅうで関心が高まっており、それを裏付けるように、食をテーマにした映画も増えています。2回にわたって、そのような映画を紹介していきたいと思います。

 「食育」は食卓のみでなく、生産から流通、廃棄などまで含むとても幅広いものです。そのうち一介の編集者の私ができることはわずかですが、あまたある映画の中から、そのような「食育」を深める一助になりそうな映画をお伝えすることで、現場に携わる栄養士さんのお役に少しでも立てれば……と思います。


■『いのちの食べ方』

 「誰もが効率を追求した生産現場の恩恵を受けている。それなのに、その現場を知っている人は本当に少ないのです」と語る、ドキュメンタリー映画監督のニコラウス・ゲイハルター氏。どきっとする言葉です。

 彼が制作した『いのちの食べ方』(オーストラリア・ドイツ:2005年)は、これまでややタブーとされて公的な映像には出てこなかった、精肉工場、養鶏場、大規模農園などの大量生産される食の現場を取材し、それらの映像をパッチワークのようにつなげた映画。昨年秋に日本で公開され、話題となりました(3月中旬現在も全国各地映画館で順次公開中。くわしい予定は当映画のホームページで)。

 広大なブロイラー小屋で、光を調節しながら、約1万羽の鶏が効率的に成長させられていくさま。漁船からホースで吸い上げられたサーモンが、加工工場に運ばれて、次々に機械であっという間に腹を割かれ、解体されていくプロセス。効率的に血抜きを行うために「ノッキング」という方法で頭部に衝撃を与えて意識を失わせ、心臓が動いている状態で吊り下げられる牛。その後、機械に吊られたまま工場内を移動し、解体がスムーズに行なわれていきます。

 “いのち”が、まるで工業製品のようにオートメーション化されたシステムの中で“製造”されていく様子に、知識で知ってはいても、映像で直視すると衝撃を受けずにはいられません。

 一方、工場で従事する人々の食卓のシーンも印象的でした。作業の合間にほおばるランチは、サンドイッチやパンを牛乳で流し込んでただエネルギーの補給をしているといった感じで、そこから食事の楽しさといったものは感じられなかったのです。

 そうした現場に普段接していない者からすれば、驚くような映像が続きますが、従事する人々には日常の光景です。しかし、慣れることはできても働く喜びや誇りを得ることは難しいのだ、ということを、その食卓のシーンが訴えているように感じました。


■『ファーストフード・ネイション』

 もう一本は、大量生産の象徴的な食品のひとつ、ファストフードの内幕に踏み込んだ『ファーストフード・ネイション』(アメリカ:2006年)。2001年に刊行され世界じゅうで140万部を超えるベストセラーとなったノンフィクション『ファストフードが世界を食いつくす(邦題)』が原作。2月中旬から東京・渋谷の《ユーロスペース》で公開が始まり、好評のため、追加上映が行われ、全国各地の映画館での上映も決まっているようです(詳しくはホームページ)

 アメリカ大手ハンバーガーチェーン店で、牛肉パテから大腸菌が検出されたことから映画は始まります。そして、それぞれ異なる3つの立場の主人公の視点から、ことの真相が明らかになっていきます。社長の勅命を受けて、コロラド州にある精肉工場に調査に向かったマーケティング部長のドン。メキシコからアメリカに密入国して、その精肉工場の仕事を斡旋されたメキシコの若い夫婦ラウルとシルビア。そしてコロラド州の《ミッキーズ》のチェーン店でバイトをする女子高生のアンバー。

 映画は本社、工場、チェーン店で働く主人公たちを同じくらい人間的に描くことで、食の安全に内包されている大量生産社会の弊害や格差社会、環境問題を浮き彫りにしていきます。

 利益を追求し、コストを削減する企業。そのしわ寄せは、さまざまなところに響いてきます。かつてアメリカの象徴でもあった独立牧場主は、経営難で年々その数が激減しています。チェーン店の店員は給料が安い上に、強盗も多発するような危険な状態で、業界の離職率は300〜400%とか。精肉工場でも、不法移民など低賃金で雇える工員を酷使。安全よりスピードを優先させるため、誤って腸を割いて残糞で肉を汚したり、工員の指や腕を切り落とす事故は日常茶飯事。さらに大規模な食肉処理場に集まった大量の糞便がもたらす環境汚染も問題に……。

 安いハンバーガーの背景にある、生産や調理の現場のコストを削るシステム。それがめぐりめぐって、消費者の健康に悪影響を及ぼす構造を明快に描いています。

 念のため原作も読んでみましたが、決して感情的なものではなく、ジャーナリストの著者が綿密な取材や客観的なデータに基づいて書いた、真摯な姿勢が伝わる内容でした。


■判断は観客に……

 食の大量生産の現場を、一方は横から、もう一方は縦からと違う角度から切り込んだこれらの作品。偶然にも続けて公開されています。両方の作品を見るとそれぞれの世界がつながって、理解が深まることでしょう。どちらも事実を丁寧、かつ客観的に描き、あえて結論を出さないような内容になっています。そこには、判断は観客自身に、という監督の意図が。見終わったあとに、ずっしりとした重みが残る作品です。


城市 真紀子 (じょういちまきこ)

女子栄養大学文化栄養学科卒業後、同大学の出版部へ。女子栄養大学文化栄養学科の卒業研究では、足立己幸教授(現在、同大学名誉教授)の食生態学研究室に所属。現在は、月刊雑誌『栄養と料理』の編集を勤め、広く食に関する記事を制作している。最近の仕事では、別冊付録『ダイエット手帳』『メタボ手帳』を制作。書籍化となり、ただ今全国書店にて好評発売中。なお、映画が好きで、同誌の映画記者というもうひとつの顔を持つ。現在、同誌面でも、最新の映画の中の食卓を紹介する「フードシネマ」を連載中。




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