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小児・母子の分野から

授乳期の栄養


井部 奈生子
管理栄養士、健康咀嚼指導士。白梅学園短期大学講師、東横学園女子短期大学講師。


 乳児は基本的に母乳で育てることが望ましいが、母親の病気や就労、母乳分泌量の減少などやむを得ない事情のある場合には、混合、または人工栄養を行います。母乳においては、分娩後3〜5日位までは黄色味を帯びた粘稠性のある乳汁が分泌され、これを初乳とよびます。母乳成分は分娩後に約10日後にほぼ一定となり、淡黄色で芳香があり淡い甘みがある成熟乳になります。

 母乳成分の素材は母親の血液から得ます。血液の組成は、母親が毎日摂取する食物の影響を受けるので、母乳組成もある程度食事の影響を受けることになります。乳児の順調な発育と母体の健康のためには授乳期の母親は多くの栄養素を必要とするので、これらを正しく理解し、母親としての喜びや自覚を認識させることも大切です。

 「日本人の食事摂取基準(2005年版)」では、必要な栄養素について、母親の非妊娠期の身体活動レベルに対する付加量で示されています。特にたんぱく質、脂質、ビタミンB1などは母乳の分泌量と関係が深いといわれているので、不足しないようにこれらを含む食品の摂取を心がける事が大切です。一方、授乳中には乳汁へのカルシウムの放出が起こるので、慢性的なカルシウム不足になり骨塩量を減少させます。長期にわたる授乳では骨代謝に影響を及ぼすといわれているので、授乳中にはカルシウムを多く含む食品の摂取も大切です。またこの時期は、栄養だけでなく心身のストレスも母乳の分泌にも影響を及ぼすので、十分な休養をとるようにして、ゆったりとした気持ちで育児に臨むことも必要です。

 先日、育児が一段落したので仕事を再開したばかりの栄養士の方にお会いする機会がありました。現在自分の自由になる時間を利用して主に授乳などの指導をされているそうです。育児のために栄養士の仕事を辞めたそうですが、自分の時間が増えた事を機に仕事を再開されたそうです。

 生き生きと仕事をされている姿を見て、「今一番仕事をしていて楽しいことは何か」と質問をしました。すると、「自分の育児の経験を踏まえながら仕事ができ、悩みを抱えている母親が笑顔を見せてくれた時です」とのことでした。その方のお話の中では「産後の回復や、質のよい母乳の授乳、元気な子育てのためには、まずお母さんが元気なことが一番大切よ」との言葉が印象的でした。母乳で育てることを強く希望しているのに母乳が出ないと悩んでいる方にも、「あきらめないでつづけてみましょうね」と授乳期の栄養で大切なことや、人工栄養についても丁寧に説明をされていました。初めてのことに戸惑いながら質問している多くの新米母親の相談にてきぱきと答えている姿は頼もしく感じられました。栄養教育をする際「いかに理解してもらえるか」は栄養士の腕にかかっているのだと強く実感した場面でした。

 大きな体の変化が起こるこの時期は、適度な運動、過食の防止に努めて妊娠による肥満の解消を図ることも大切です。継続的な実践のために必要なことは、母親が「何のために何を食べるのか」ということを理解することです。今後も頼もしい仕事仲間との交流を通して、考え方や工夫している情報などを得てコラムでも紹介していきたいと思っています。


井部 奈生子(いべ なおこ)

管理栄養士、健康咀嚼指導士。国際学院埼玉短期大学専攻科食物栄養専攻卒業後、女子栄養大学大学院栄養学研究科修士課程終了。戸板女子短期大学給食管理研究室助手を経て現在は、白梅学園短期大学、東横学園女子短期大学にて講師を勤める。研究テーマ・論文等は「新生児マス・スクリーニングで発見されたフェニルケトン尿症の生活状況に関する研究」、現在の研究テーマは「食品のテクスチャーとその官能評価について」




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